【第59回】MM理論。借金は企業価値を変えるのか?

第二章:一次試験攻略

「借金は怖いが、借金をした方が会社が大きくなるという話も聞く。……結局、どっちが正解なんだ?」

番台で電卓を叩く店主に、新たな疑問が浮かぶ。昭和の湯を拡張するために、借金をして勝負すべきか、それとも無借金にこだわるべきか。資本の「構成」を変えるだけで、店の価値が変わるという不思議な理論、MM(モディリアーニ・ミラー)理論に挑む。

【理論プロファイル】ピザの切り分けと「節税」の魔法

診断士試験において、MM理論は大きく分けて2つのステップで理解する必要がある。

① 「税金がない世界」の結論(第1命題)

「企業価値は、借金があろうとなかろうと変わらない」という結論だ。これを学者は「ピザの理論」で説明する。Lサイズのピザ(企業が生み出す利益)が1枚あるとき、それを「店主(株主)」と「銀行(債権者)」でどう切り分けても、ピザ全体の大きさは変わらない。つまり、資金をどこから持ってきたかは、本質的な価値に関係ないという考え方だ。

② 「税金がある世界」の結論(修正MM理論)

ところが、現実には法人税がある。ここからが重要だ。 「借金をした方が、企業価値は高くなる」という結論に変わる。なぜなら、借金の利息は「経費」として認められるため、国に払う税金が減り、その分だけ店の中に残るキャッシュが増えるからだ。これを「負債の節税効果」と呼ぶ。

ふくろう先生
ふくろう先生

試験では『節税効果の額』を計算させることがあります。公式は非常にシンプルで、『負債の額 × 法人税率』です。例えば、1,000万円借りていて税率が30%なら、それだけで店の価値は300万円アップしたとみなすのです。ただし、現実には借金が増えすぎると『倒産のリスク(倒産コスト)』という重荷が増えて、価値が下がり始めるポイントがある、という点までセットで覚えておきましょう。


【実務ノウハウ】店主、借金の「おトク度」を計算する

店主は、昭和の湯が「無借金」の場合と「1,000万円の借金」をした場合で、手元に残るお金がどう変わるか、具体的な数字で比較してみた。 ※話をシンプルにするため、利息を年率5%(50万円)とする。

① 無借金経営の場合(ピザを独り占め)

  • 本業の利益:200万円
  • 支払利息:0円
  • 税引前利益:200万円
  • 法人税(30%):60万円
  • 手元に残る利益:140万円

② 1,000万円を借りた場合(銀行と分け合う)

  • 本業の利益:200万円
  • 支払利息:50万円(経費!)
  • 税引前利益:150万円
  • 法人税(30%):45万円
  • 手元に残る利益:105万円

「……あれ? 借金した方が手元の利益が減っているじゃないか!」 店主は一瞬戸惑う。

ふくろう先生
ふくろう先生

店主は一瞬戸惑っていますが、読者の皆さんはここで『店全体』から出ていったお金に注目してください。 銀行への利息と店主の利益を合算すると、税金が減った分のメリットが見えてきます。

③ 「誰の懐に金が入ったか」の合計を見る

  • 無借金の場合:店主がもらう 140万円 = 合計140万円
  • 借金ありの場合:店主がもらう 105万円 + 銀行がもらう利息 50万円 = 合計155万円

「あっ! 借金をした方が、店から外(国)へ逃げていく税金が15万円(60万-45万)減って、その分、店と銀行の連合軍が手にする合計額が15万円増えている!」 これが修正MM理論の正体だ。借金をすると、ピザ(利益)の一部が「利息」という名目で税務署の手が届かない場所(経費)へ逃げ込む。結果として、「(株主+銀行)が受け取れる総額」が大きくなるため、企業価値が上がるのである。

④ 借金のしすぎは「毒」になる(倒産コストの正体)

「なるほど。じゃあ借金は多ければ多いほどいいのか?」 店主はさらに調子に乗って、5,000万円の無謀な借金をした場合をシミュレーションしてみた。

  • 本業の利益:200万円
  • 支払利息(5%):250万円

「大変だ! 利息が利益を上回って、50万円の赤字になってしまった。税金は確かに0円になるが、これでは店が立ち行かないぞ!」

さらに、この「赤字」という数字以上に深刻な倒産コスト(毒)が昭和の湯を蝕み始めることに店主は気づく。

  1. 信用の崩壊と現場の混乱: 「昭和の湯は利息も払えないらしい」という噂が立ち、薪の業者が「これからは現金前払いでないと納品しない」と言い出す。手元の現金を利息に回しているため、薪が買えずにお湯を沸かせなくなる。
  2. 人材への影響: 経営不安を感じた従業員の田中さんと佐藤さんが、「これからはもっと安定したスーパー銭湯に人が流れるのでは」と将来を案じるようになる。彼らのモチベーションが下がれば、清掃が疎かになり、客足が遠のく原因になる。
  3. 資産の切り売りと競争力低下: 利息を払うために、風呂桶の買い替えや施設の修理を後回しにせざるを得ない。設備がボロボロになれば、本来200万円稼げたはずの利益が、100万円にまで落ち込む。

「節税で得をした15万円なんて、あっという間に吹き飛ぶダメージだ。本業の利益そのものが削られてしまったら、いくら節税できても企業価値はどん底だ。これが『倒産コストが節税メリットを上回る』ということか!」

店主は、節税の「盾」がもっとも強く機能し、かつ倒産の「毒」に侵されない、昭和の湯にとっての「最適な資本構成(ちょうどいい借金の量)」を探る重要性を痛感した。


【AI共創:合格へのブースト術】

MM理論の「もしも」を整理するために、AIを「前提条件の仕分け役」として活用する。

  • 「前提条件の仕分けトレーニング」:AIに「法人税がある場合、負債比率を上げるとWACCはどうなるか?」といった質問を投げ、結論とその理由(節税効果の有無)を正確に説明させる。※WACCは次回解説します。
  • 「レバード・ベータの算出」:借金を背負うことでベータがどう変化するのか、AIに具体例を出させて計算させる。CAPMとMM理論が「リスク」という言葉で繋がっていることを再確認する。

財務・会計を突破する「本物の武器」

この科目は、テキストを読む時間よりも「手を動かす時間」が合否を分ける。

  • これを完璧にすれば一次はいけます!最優先の武器。財務は「解き方のパターン」を体に染み込ませるゲームだ。この一冊を完璧にすれば、1次試験の計算問題の大部分をカバーできる。
  • これも必須。財務会計はとにかく手を動かしましょう!頻出論点を網羅的に叩き込むための必携書。過去問の「出方の癖」を知ることで、計算問題集で得た知識を本番用にチューニングする。
  • 論点を確認しましょう!辞書代わりに使用する。計算でつまずいた際、理論の背景を再確認するために3番手の位置づけで活用するのが効率的だ。

(独学以外の効率的な選択肢として)

  • [スタディング 中小企業診断士講座] 財務こそ、映像での学習が最も効果的だ。B/S や P/L の構造、キャッシュフローの動きを図解アニメーションで見ると、テキストでは分からなかった「数字の流れ」が立体的に理解できる。

「借金は単なる資金繰りじゃなく、企業価値を左右する戦略的な道具なんだな。ピザの切り方ひとつに、こんな深い理屈があるとは……。」

店主は、自社のバランスシートを愛おしそうに見つめる。さて、理論を積み重ねてきた店主。次回は、これらすべての知識を総動員して、いよいよ「会社そのものの値段」を算出する、最高難度の山場に挑む。

次回、「企業価値の評価。昭和の湯はいくらで売れるのか?」。 ファイナンス編、フィナーレへ。

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