【第53.5回(特別回)】昭和の湯・現金流出入の全記録。キャッシュフロー計算書の真実

第二章:一次試験攻略

キャッシュフロー計算書は一次試験で躓きやすいポイントです。なので、特別回として、事例をもとに解説していきます。紙とペンを用意して書きながら理解しましょう。

深夜。番台に座る店主の前には、先月の「損益計算書(P/L)」と「預金通帳」が並んでいる。

P/Lの一番下、当期純利益は「20万円」の黒字。しかし、通帳の残高は「40万円」増えている。

「利益が20万円なのに、なぜ現金が40万円も増えているんだ? もしこれが逆だったら、利益が出ているのに金がない『黒字倒産』になるのか……?」

この「20万円の謎」を解くために、店主は現金を3つの「蛇口」に分けて整理し始めた。


そもそも「3つのキャッシュフロー」とは何なのか?

店主はまず、混乱しがちな3つの区分を、シンプルに定義し直すことにした。

営業活動によるキャッシュフロー(営業CF):【稼ぐ力】

本業の商売(銭湯)を回すことで、実際に入ってきた金と出ていった金。石鹸の仕入れ、給料の支払い、客からの入金など、「日々の循環」を指す。

投資活動によるキャッシュフロー(投資CF):【将来への布石】

将来の売上を作るために、固定資産などを買ったり売ったりした金。「商売の器(うつわ)を整える動き」を指す。

財務活動によるキャッシュフロー(財務CF):【お金の工面】

足りない金を借りたり、余った金で返したりした、銀行などとのやり取り。「資金の調達と返済」を指す。

ふくろう先生
ふくろう先生

試験で迷いやすいのが『営業』と『投資』の境界線です。ポイントは、その支出が『一過性の消費』『長期的な資産』かという点。薪代や石鹸代は使えば消えるので『営業』ですが、ボイラーや建物は数年間にわたり収益を生む土台となるので『投資』に分類されます。また、利息の支払いや配当金の受け取りを『営業』か『財務・投資』のどちらに入れるかは、会社が選択できるという実務上のルール(第2次区分)も、余裕があれば頭の片隅に置いておきましょう。


実践:昭和の湯の「営業CF」をあぶり出す(間接法)

店主は、試験の最難関である「間接法」で、本業の現金の動きを計算していく。

「利益からスタートして、現金の動きに変換していく」という、あのパズルのような作業だ。

① 利益という「見かけ上のゴール」

まず、P/L上の利益である 20万円 を机の真ん中に置く。ここには「まだ入っていない金」や「実際には払っていない経費」が混ざっている。

② 誰にも払っていない経費「減価償却費」の足し戻し

先月、店主は建物の減価償却費として 50万円 を経費に計上した。

「だが待てよ。この50万円は、誰かの口座に振り込んだわけじゃない。帳簿上では利益を削っているが、金は俺の財布の中に居座っているはずだ」

そこで、利益の20万円に、この50万円を プラス(足し戻し) する。

(暫定の現金:20 + 50 = 70万円)

③ 「未回収の売上」のマイナス調整

次に、地元の商店会で発行している共通商品券での売上。売上として 30万円 計上したが、商店会からの現金振り込みは来月末だ。

「これは売上には入っているが、現実はまだ一円も届いていない『売掛金』だ」

利益に含まれているこの30万円を、現金計算からは マイナス する。

(暫定の現金:70 – 30 = 40万円)

④ 支払いを待ってもらっている分のプラス調整

逆に、薪の仕入れ代金。先月分 10万円 の請求が来ているが、支払いは来月でいいと言われている。

「これは経費(買掛金)として利益からは引かれているが、実際にはまだ俺の手元に10万円が残っているということだ」

そこで、この10万円を プラス する。

(結果:営業活動によるキャッシュフロー = +50万円


混乱の解消:「営業CF」と「投資CF」はどう違う?

店主は、ここで一つ疑問を持った。

「薪代の支払いは営業CFなのに、ドライヤーを買った支払いは投資CFになる。この違いは何だ?」

これが、経営判断において最も重要な境界線だ。

営業CF(薪代の支払いなど)

薪は燃やせばすぐになくなる。つまり、「その期の売上を作るために、その期で使い切るもの」への支払いは営業CFだ。

投資CF(ドライヤーや床の補修など)

新調したドライヤーや張り替えた床は、これから何年も店を支え続ける。つまり、「数年間にわたって利益を生み出し続ける『資産』を手に入れるための支払い」が投資CFだ。

昭和の湯では先月、ドライヤー5台(10万円)を新調し、脱衣所の床(10万円)を張り替えた。これらは数年にわたる資産形成だ。※消耗品/備品費だろとかの細かい突っ込みは一旦なしでお願いします※

したがって、投資活動によるキャッシュフローは「▲20万円」となる。


第三の蛇口:財務活動によるキャッシュフロー(資金の融通)

最後に、銀行とのやり取りを整理する。

昭和の湯には、数年前の改装時に借りたローンの返済がある。先月の返済額は利息を除いて 10万円

「これは商売の利益とは関係ない、借りた金を返しただけの動きだ」

金が外へ出ていったので、財務活動によるキャッシュフローは「▲10万円」となる。


運命の合算:通帳の「40万円増」の正体

さあ、3つの蛇口から出た水を、一つの桶に集める。

  • 営業CF:+50万円(本業でガッチリ稼いだ)
  • 投資CF:▲20万円(設備に投資した)
  • 財務CF:▲10万円(借金を返した)
  • 商売の合計:+20万円

「……まだ20万円足りないな。通帳は40万円増えているはずだ」

店主は、もう一度帳簿をめくる。そこで、ある一通の通知を見つける。

「ああ、亡くなった親父がかけていた共済の満期金 20万円 が、店の口座に振り込まれていたんだ。……これは商売とは関係ない『非営業』の臨時収入だ!」

この「臨時収入」という非日常のノイズを除いた、純粋な商売の成果としての現金の増え方が「+20万円」だったのだ。


店主が掴んだ「C/Fの本質」

店主は、深くため息をつき、椅子に背をもたせかけた。

「もし、俺が通帳だけを見て『40万円も増えてる! 今月は絶好調だ!』と勘違いして、新しい設備を導入していたらどうなっていた……?」

  1. 営業CFが+50万円だったが、もし商店会の清算が遅れたりすれば、営業CFはさらに圧縮される。
  2. 親父の満期金20万円は、今回限りのラッキーパンチだ。
  3. つまり、昭和の湯の「実力」で生み出せる現金は、実際にはもっと少ない。

「利益(20万円)」という意見に惑わされず、「現金(20万円の実力増)」という事実を、その内訳(営業・投資・財務)まで分解して見る。これこそが、キャッシュフロー計算書が「経営の羅針盤」と呼ばれる所以なのだ。


「なるほど。利益が『20万円』、現金の増加が『20万円』。数字がたまたま同じでも、その中身を分解しなきゃ、明日の薪代がいつ枯渇するかわからないってことか」

店主は、夜明け前の静かな銭湯で、自らの経営の「血流」が初めて透けて見えたような気がした。

次回、「ファイナンスと現在価値。10年後の100万円は今いくらか?」。 時間は、お金の価値をどう変えるのか。投資理論の核心へ。

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